目を開けると、もう何度も見慣れた天井。
最近は飽き飽きするくらいのそれを穴が空くんじゃないかという位睨み付けたのはもう何度目だろう。
睨んでも全く反応がないのも、苛立ってしまう原因の一つだ。
天井なのだから反応があったらあったで怖い、そんな怪奇現象はごめんだ、と思ってはいても。
は元気だろうか。
あれから一度も会うことを許されていない。
それもそのはず、スノウから宣告された通り、あれから気付くと部屋に監禁状態だ。
は牢に入れられているらしいから、まだ待遇は良い方だ。
だけど一日中部屋に閉じこめられる、という狂態は普通の人間、特に、常に落ち着きのないにとっては拷問そのものだ。
気が滅入る、というよりストレスで苛々してきた。きっと今頃外ではスノウのバカのせいで
「人の良いを唆した悪女」
とでも広まってしまっていることだろうと思うと苛々も破格の2割増だ。
そんなサービスはいらない、と言った所でどうしようもないから尚質が悪い。
こんな状況なのにこうして何も出来ない自分に腹が立つ。
いてもたってもいられない、とベットから起きあがって、狭い室内を腕を組んで行ったり来たり。
この行動も一体何十回目だろう。数えるのもばかばかしいほど繰り返した筈だ。
は一体何しているだろうか。
まさかスノウのバカに拷問でも受けていたりしたら!!絶対に許さない、にあんなことやそんなことを!
要らぬ想像をしては怒りに身を任せる。この行動も一体何十回目だろう。

それにしてもこんなにもすんなりスノウの話が通ってしまうとは。
最初の頃はもしかしたら誰かが疑問を持ってくれて疑いが晴れるんじゃないか、と期待した。
だけど、その内その可能性も皆無であると悟った。
話の出所がスノウからであることや、何よりも尊敬するグレン団長が亡くなった、
と言うことで皆すっかり動揺して、皆頭に血が昇ってしまって冷静な判断に欠いているのだ。あのカタリナでさえ。
やるせない。だって悲しくないわけない。
グレン団長には何度も優しくしてもらった記憶がある。本当に尊敬に値する人物なのだ。
ぼすん、と何度目になるか分からないベッドへのダイブをしてからまた天井を見上げた。

一番やるせないのは、きっとだ。
は今……。きっと。

あの時の事を思い出すと今でも腹が立つ。
はスノウの事が嫌いではなかった。一方的に嫌われてはいたけど。
目が合うだけで反らされる側の気持ちがわかるか、バカ!
なんでスノウに嫌われているかと言うと、スノウはきっとに盗られた、と思っているのだ。
が来てから の世話で忙しく、それが不満なのだ。
それを何回かに言った事があり、そうすると決まっては、のことを
小馬鹿にしたような、哀れんだような目で見るのだ。
『馬鹿だなぁ』絶対あの目はそう語っていた。
今でもその時のは理解出来ないが、今わかるのは、そうやってスノウの事を仲良く話たり出来ない、ということだ。
それは悲しいこと。
そして、嫌われてはいたものの、まさかここまで信用されていなかった事がショックだった。
スノウはきっと、自分の大事な親友を奪った憎い女、と思っているだろう。悲しいけど。

「よし、決めた!」

勢いを付けてベッドから起きあがる。先ほど違う行動があるとすれば、まっすぐドアに向かった事だ。
そしてそのまま取っ手に手をかける。
ここでいつもと違うのは扉に鍵が掛かっていないこと。
それは昨晩ポーラが訪ねて来てくれてから、うっかり、鍵を閉め忘れて行ってくれたからで。
(ポーラありがとう。)
心の中で、変な噂に惑わされることなく自分を信じてくれた大好きな友人に感謝する。
こっそり顔だけ出して周りに人がいないのを確認して外にでた。













programma2-6 cambiamento - 急変 -













行き先は知っている。
これもポーラがうっかり口を滑らせてしまったことにより知り得た情報だ。
目指すのはのいる牢。の刑がどうなったのかはまだわからないが、
団長殺害、という重罪である以上、軽いものとは思えない。
この島の習がわからない以上、うかうかしていられない。刑が決定してからでは遅いのだ。
しかも自身、どんな判決が下されるかわからない身なのだから。
(出来れば目的地まで誰とも遭遇しませんように。)
騎士団員になんか見つかったら、悲しいことにきっと一溜まりもないだろう。

「よう。」

そう思った矢先になんと間の悪い事だ。
後ろからかけられた声に現行犯で見つかった泥棒よろしく、
その場に飛び跳ねる。背筋から汗が伝うのがわかった。
「くくく。お前、相変わらず面白い反応してくれるな」
「なにを!!」
追われる身だというのに思わず条件反射に振り返ってしまう。
何故ならその声が普段良くからかってくる人物にそっくりだったからだ。
そうして後悔しても遅い。振り返った先には
「げ、タル!!」
「げ、とはなんだ失礼な」
「失礼なのはどっち!!ちょっとやだこっち来ないでよ!」
「おまっ、人にお願いするときはそういう態度でいいのか!?」
「じゃあお願いだから私の事は見なかった事にしてどっか行って下さい」
「棒読みじゃねえか!」
「五月蠅い!今は敵なんだから素直にどっか行ってよ!」
こんなとこでタルとじゃれている場合じゃない!
油を売っている間に敵が増えたら厄介だ。こうなったらタルには悪いがここで眠ってもらって
「何か嫌なこと考えてるだろう、お前」
本当、ろくなことしねえのな、考えてる内にジワジワとタルに追いつめられた。
あっという間に壁側まで追いやられ、退路を断たれてしまった。こうなったら最早戦うしか道はないのかと身構える。
それなりに仲が良かっただけにタルを叩きのめすのは忍びない。
「まさかとは思うが、その手に持っているのが武器、とか言うんじゃないだろうな…」
多分そうなんだろーけど。そう言って笑いを堪え切れていないタルを睨み付ける。
「うるさい」
しかし手に握っているのは部屋にあった『ほうき』だから今一迫力に欠ける。
他に何か武器になりそうだったのがなかったのだからしょうがない。
ちりとりも持って行くかどうか悩んだのは絶対に秘密にしよう、と思った。
案外叩くと痛いよ、これ、試してみようかと身構えると、堪える気すらも忘れて豪快に笑いだした。
「ちょっと!こんなところで騒がないでよ!誰か来たらどうす…
えっと、あの、お願いだから、そこどいてくれないかな?今まで仲良くしてくれたよしみで」
だけどついに壁まで追いやられてしまう。背中に堅い感触が当たった。目の前の少年は態度を改める様子はない。
こうなったら仕方がない、ほうきを握る手に力を込めた瞬間。

「は?」

この状態はなんなのだろう。ふいに熱を感じる体に驚いた。
全くこの状況を把握できていない、と言うより、思考回路が止まってしまったようだ。
「な、な」
「いいからじっとしてろ」
必要以上に近い距離で耳元に囁かれて、顔が真っ赤になるのが分かった。

タルに抱きしめられている!

そう、判断出来た時に体中が熱くなるのがわかった。
だけどそれが自分の熱なのかタルの熱なのか考えられない程頭は混乱していた。
いくらタルとはいえ、この状況はいただけない!タルの体を退けようと腕に力を込めたその時
「おい、タル!!」
横から第三者の声が聞こえて、体が固まった。
嗚呼、もう完璧おしまいだ、天を仰いだ。
「…っと、お楽しみの所邪魔しちまったみたいだな。」
(は?)
「おう、悪いな。」
(はい?)
そう言って抱きしめる腕に力が篭もりタルの胸に顔を押しつけられて呼吸困難になりそうになった。
ドキドキ、とタルの心音が聞こえる。その動きは何故か速い。
混乱して暴れそうになると、耳元でいいから大人しくしてろ、と聞こえた。
「たく、ほどほどにしろよ」
そう言って去っていく足音。
おもむろにため息が聞こえたと同時に、苦しい状況から解放される。目の前には何故か不敵に笑うタルと目があって。
「危なかったな。てお前、顔が真っ赤だぜ。」
「うるさ!って、は、なに?!はい?どういう…」
図星を指されて更にトマトのように顔を真っ赤になり
、まるで働かない頭で口をぱくぱくさせるをみてまた深いため息をつく少年。
「はあ?お前な……。気づけよいい加減……」
「はいぃ?!」
思わず上擦る自分の声に吃驚しながら目の前のタルを見る。心なしかタルの頬が赤く見えるのは気のせいなのか。
視線は彼に、だが頭の中はタルの発言で変な想像がグルグルと目まぐるしく駆けめぐる。
まさか愛の告白?!
そんなこんな時に……!困る、今まで全然タルの気持ちには気づかなかった……
「このままのとこに行っても、今みたいに見つかるのがオチだぜ」
警備も結構いるしな。タルを穴が空くくらい見つめる。
「見張っておいて良かったぜ。ポーラがお前がそろそろ我慢できなくなるだろう、って言ってたのは正解だったな。
ったく、しょうがねえな、俺が助けてやらなかったらお前今頃かんっぺきう捕まってたな」
貸し1つだかんな。タルを穴が空くくらい、見つめる。
「あ、そういう」
ことね、じわじわと羞恥心が顔に集中する。穴があったら入りたい、
混乱していたから正常な判断が下せなかったのだ、しょうがないと自己嫌悪に陥るにとどめをさすかのように、
「?何赤くなってんの?」
「なんでもない!!」
死んでも今考えた事は教えない!羞恥心で赤くなった頬を叩く
不思議そうに見るタルを蹴り飛ばしてやりたくて仕方なかった。
「まあいい、着いてこいよ。」
そう言って手を引っ張るタルの力から抵抗するように腕に力を込めた。
今の事は不本意ながらも感謝するが、まだタルの考えが読めない。
「どういうこと?」
を信じてるのはお前だけじゃないって事だよ。
このままあいつと永遠に別れることになってもいいなら別にかまわないけど。」
「どういうこと?!!」


の処罰が決まったんだ。
詳しい話は後にして、来るならさっさと来い!」









                                                            2006.5.6
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